1人1台の端末を実現する。GIGAスクール構想とは
1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを整備することを目的とした「GIGAスクール構想」。個別に最適化された学びを提供するために、現在政府主導で進められている施策です。
今回は、GIGAスクール構想の定義や必要とされている背景、現状の問題点や取り組み事例などをご紹介します。
個別に最適化された学びを提供する「GIGAスクール構想」とは
「GIGAスクール構想」とは、これからの時代に向けた教育環境の整備や最適な教育を実現させるための構想で、文部科学省が提唱しています。
同省が公表している「GIGAスクール構想の実現へ」では、GIGAスクール構想を以下のように定義しています。
・1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育 環境を実現する
・これまでの我が国の教育実践と最先端のベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す
つまり、GIGAスクール構想は、1人1台の端末を用いて個別に最適化した授業をおこない、そのために高速で大容量の通信ネットワーク整備をゴールとした構想であるといえるでしょう。
では、なぜGIGAスクール構想が必要とされているのか? 1人1台の端末を用いて学習するといかなる利点があるのか? また実現するためにどのような取り組みがおこなわれているのかなどを、以下の項目でくわしく解説していきます。
GIGAスクール構想が必要とされている背景
GIGAスクール構想の核となる「1人1台の端末」、「高速大容量の通信ネットワーク整備」ですが、このような情報通信技術を活用して教育機関で授業をおこなうことを「ICT教育」といいます。
つまり、GIGAスクール構想はICT教育を実現するためのものでもあり、ICT教育の重要性としては、文部科学省の『新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(学校における先端技術の活用に関する実証事業)について』で、以下のように記されています。
Society5.0の時代において求められる資質・能力を育成するためには、新学習指導要領の着実な実施やチームとしての学校運営の推進が不可欠であり、その中核を担う教師を支え、その質を高めるツールとしての先端技術を効果的に活用することが必要である。
「子供の力を最大限引き出す学び」を実現するため、教育のあらゆる場面においてICTを基盤とした様々な先端技術を効果的に活用する実証研究を行い、教員による児童生徒への学習・生活指導の充実や校務支援、政策改善等、教育の質の向上を図る。
出典先に登場する「Society5.0」とは、ビッグデータや人工知能、ロボットテクノロジーなどの最先端技術がより高度化し、産業や社会生活のなかに浸透していくことにより、現在の社会のあり方そのものが劇的に変化した世界であるとされています。
人間が今まで歩んできた狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会をそれぞれSociety1.0〜4.0に区分し、次に登場する社会をSociety5.0と捉えていることからも、そのインパクトの大きさが伺えます。
文部科学省などは、このSociety5.0に対応できる人材を育成することを目的として、Steam教育やアクティブラーニングなどといったさまざまな新しい教育手法を取り入れようとしています。それらを実現するために、ICTの整備やGIGAスクール構想を推進しているのです。
また、もうひとつの背景としては、諸外国に比べてICT化が遅れている面も見逃せません。
OECDの「生徒の学習到達度調査2018年調査」の「ICT活用調査」によれば、日本の学校の国語・数学・理科におけるデジタル機器の利用時間はOECD加盟国のなかで再開意図なっています。また、コンピューターを使って宿題をする、学校の勉強のためにインターネット上のサイトを見る、関連資料を見つけるために、授業のあとにインターネットを観覧するなど、教育に関連するデジタル機器の利用状況は、ほぼすべて平均以下となっているのが現状です。
Society5.0は、日本だけでなく世界中で起こる変革ですから、日本の対応が遅ければそれだけ取り残されてしまい、国際的な競争力も低下してしまいます。この現状を鑑み、文部科学省は「学校のICT環境整備の加速化に向けた取組の推進」を掲げ、補足説明として「1人1台の学習者用コンピュータ、学校内全教室の高速かつ大容量の通信ネットワークの整備を推進」が必要である、つまりGIGAスクール構想の実現を提唱しています。
出典:新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(学校における先端技術の活用に関する実証事業)について
OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント
GIGAスクール構想をどう学びに活用するのか? それによってどのような効果が生まれるのか
Society5.0に対応できる人材を育成するためには、GIGAスクール構想の実現が急務ですが、ICT環境を整備して学習をおこなうことで、どのような効果が生まれるのでしょうか。
文部科学省の「GIGAスクール構想」では、「これまでの教育実践の蓄積×ICT=学習活動の一層充実。主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」という式を掲げ、さらに3つのステップとして学びの変容イメージを描いています。
「これまでの教育実践の蓄積×ICT=学習活動の一層充実。主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」ですが、1人1台の端末を持つことで、どのように学びが深化・転換するのかを解説しています。
たとえば、一斉学習においては、教師が電子黒板など用いて授業をおこない、子どもたちの興味関心を高めることが可能です。しかし、1人1台の端末があれば授業中でも1人1人の反応を把握でき、きめ細やかな指導が可能となり、さらに深い学びを得られるとしています。
また個別学習では、1人ずつ端末を所持することにより、レベルにあった内容を学習でき、学習履歴が自動的に記録できれば個々人の教育的ニーズや理解度に応じた指導が可能。
さらにグループ学習では、端末活用により1人1人が集めた情報を即座に共有でき、共同編集がしやすく、すべての子どもが情報の編集を経験でき、多様な意見にも触れられるといったメリットが挙げられています。
次に「3つのステップ」についてですが、「GIGAスクール構想」では
・【ステップ1】
すぐにでも、どの教科でも、誰でも活かせる1人1台端末
・【ステップ2】
教科の学びを深める。教科の学びの本質に迫る。
・【ステップ3】
教科の学びをつなぐ。社会課題等の解決や1人1人の夢の実現に活かす。
以上のように各ステップを定義しています。
ステップ1の「すぐにでも、どの教科でも、誰でも活かせる1人1台端末」は、例として、1人1人が情報を検索して収集・整理して真偽を確認・判断する「検索サイトを活用した調べ学習」。自分自身の考えをまとめて共有し、共同編集をして学び合う「文章作成ソフト、プレゼンソフトの利用」。さらに教育者側としては、個人個人の学習進捗状況を可視化し、特別な支援を必要とする子どもたちにはよりきめ細やかな対応をおこなうなどが挙げられています。
ステップ2の「教科の学びを深める。教科の学びの本質に迫る。」では、書く過程を記録し、よりよい文章作成に役立てる(国語)。国内外のデータを加工・可視化したり、地図情報に統合したりして分析する(社会)などを例として提示しています。
最後のステップ3「教科の学びをつなぐ。社会課題等の解決や1人1人の夢の実現に活かす。」では、「ICTを含む様々なツールを駆使して、各教科等での学びをつなぎ探究するSTEAM教育」が掲げられており、科学・技術・ものづくり・デザイン・数学といったさまざまな学問領域などを探求するにあたって、ICTを効果的に活用することができるとしています。
GIGAスクール構想実現のための具体的な取り組み
GIGAスクール構想を実現するにあたって、政府はさまざまな取組をおこない整備を進めています。具体的な指標としては、文部科学省の「GIGAスクール構想の実現パッケージ」内の、『「未来の学び」構築パッケージにおけるメニュー』にて、以下のように記されています。
「学校ICT環境の基盤構築への支援策」
①児童生徒1人1台端末の整備、②1人1台端末の利用を前提とした校内通信ネットワーク環境の整備。【文科省による補助事業で対応】
過疎地域等の条件不利地域等において、学校までの光ファイバの整備・高度化が必要な場合は、光ファイバの新設や高度化を実施。【総務省による補助事業等で対応】
「学びの先端技術活用等への支援策」
各教科等でのICT活用方策について、動画を含む各種ツール等を使いながら広く周知するとともに、「未来の学びコンソーシアム」の実践事例の活用や、「教育情報化に関する手引き」の理解等を促進。【文科省GIGAスクール構想の実現パッケージで対応】
学習履歴や遠隔教育システムの活用など、先端技術の効果的な活用方法の整理・普及。
【文科省による新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業で対応】
学習ソフトや映像教材等のEdTechの導入を支援。【経産省によるEdTech導入実証事業で対応】
「未来の教室」実証事業等の先進事例の普及、EdTechコンテンツやSTEAMライブラリの構築・運営。【経産省による学びと社会の連携促進事業等で対応】
また、「GIGAスクール構想の実現パッケージ〜令和の時代のスタンダードな学校へ」では、以下の5つの項目を設けて構想実現のためのパッケージが用意されています。
1:環境整備の標準仕様例示と調達改革
・学習者用端末の標準仕様を例示
・校内無線LANの標準仕様を例示
・標準仕様書を基に都道府県レベルでの共同調達を推進
※【目的】学校におけるICT環境の整備調達をより容易にする
2:クラウド活用前提のセキュリティガイドライン公表
・「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(平成29年策定)」をクラウド・バイ・デフォルトの原則を踏まえて改訂
※【目的】クラウドを活用することで、より使いやすい環境にする
3:学校ICT活用ノウハウ集約表
・ICTを活用した指導、整備などの参考になる「教育の情報化に関する手引」を公表
※【目的】すべての職員がすぐに使えるようにする
4:関係各庁の施策との連携
・総務省によるローカル5Gの活用モデル構築
・経済産業省によるEdTech導入実証事業、学びと社会の連携促進事業
※【目的】ローカル5Gや教育コンテンツを活用して未来の学びを実現する
5:民間企業等からの支援協力募集
・民間企業等から学校へのICT導入、利活用に対する協力を募る
※【目的】外部支援による導入・利活用の加速
GIGAスクール構想、並びにICT環境の整備、以上のパッケージを参考に、基本的に各自治体が個別に進めていきます。ネットワークや端末などの整備にかかるコストは国が補助を出しています。
実現までの期間としては、当初2023年度までを目標としていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、在宅やオンライン学習に必要な通信環境などの整備が急務であると判断され、2,000億円を超える補正予算案が組まれることとなりました。
このように、GIGAスクール構想を実現するための取り組みとして、政府は省庁を横断し、また民間企業等にも協力を仰ぎ、整備が進められています。
出典:GIGAスクール構想の実現パッケージ
事務連絡 令和2年4月7 各都道府県教育委員会 学校設備整備等担当課長 殿 文部科学省初
GIGAスクール構想取り組み時の課題とは
新型コロナウイルス感染症の拡大と、それによる社会の変化もともなって急ピッチで進められているGIGAスクール構想ですが、取り組みに際していくつかの課題が見られるのもまた事実です。
本項では、どのような課題や問題点があるのかを解説していきます。
GIGAスクール構想取り組み時の課題、具体的な問題点
GIGAスクール構想を実現するためには、現状いくつかの課題や問題が存在しています。そのなかの大きなものとしては、学校におけるICT環境整備が遅れている点が挙げられるでしょう。
『「GIGAスクール構想」について』の「学校のICT環境整備の現状(平成31年3月)」によれば、教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数・普通教室の無線LAN整備率・普通教室の校内LAN整備率・インターネット接続率・普通教室の大型提示掃除整備率のすべてが目標値にとどいていないという報告がなされています。また整備状況の地域差も顕著です。
さらに、令和2年8月に発表された「GIGAスクール構想の実現に向けた調達等に 関する状況(8月末時点)について (速報値)」によれば、端末の調達における業者の選定状況や、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に備えた対応について、いずれも芳しくない進捗が示されています。
政府側も予算を投入し、効率的な初期設定やICT活用教育アドバイザーの活用や相談支援など、幅広いサポートを展開していますが、なかなか予定通りにはいかないのが現状のようです。
また学校だけでなく、新型コロナウイルス感染症の拡大により、家庭学習やオンライン授業などをおこなうにあたり、家庭での通信環境の整備や管理も必要となってきています。これらにかかるコストをすべて保護者側が負担するのかというのも議論の余地がありますし、家庭の経済状況によってはICT環境を導入するのが難しいなど、格差が生まれやすいといった懸念も考えられます。
さらに、教師や親などのITリテラシーの低さも挙げられます。「教える側」がITやセキュリティ、ネットワークに関して知識をもっていなければ、子どもたちに適切な教育をほどこすことができません。
GIGAスクール構想に関しては、さまざまな取り組みが進んでいるものの、課題や問題点もまだまだあるというのが現状であるといえるでしょう。
出典:「GIGAスクール構想」について
GIGAスクール構想の実現に向けた調達等に 関する状況(8月末時点)について (速報値)
GIGAスクール構想取り組み事例
GIGAスクール構想は、基本的に各自治体が主体となって整備に取り組んでいます。本項では、具体的にどのようなアクションを起こしているのかを紹介していきます。またあわせて、文部科学省などの省庁側の取り組みもあわせて解説します。
GIGAスクール構想取り組み事例「東京都北区」
東京都北区では、GIGAスクール構想を令和3年4月に実現できるよう、準備や検討を進めているそうです。
具体的な進捗状況は区のホームページで公開されており、配布している「GIGAスクール通信」にて、Q&A形式でGIGAスクールの定義や内容をわかりやすく紹介しています。
出典:北区におけるGIGAスクール構想の実現に向けた取り組みについて|東京都北区
GIGAスクール構想取り組み事例「兵庫県神戸市」
兵庫県神戸市では、東京都北区と同じようにウェブサイト上でGIGAスクール構想への取り組みや進捗状況を発表しています。
同市では、令和2年中に校内ネットワーク高速化のための工事をおこない、小中学校・義務教育学校・特別支援学校(小学部・中学部)の全児童生徒に1人1台の端末を調達するとしています。
またGIGAスクール構想への取り組みを周知するための「ギガスクール通信」も公開しています。
GIGAスクール構想取り組み事例「奈良県奈良市」
奈良県奈良市の教育委員会では、新型コロナウイルス感染症の拡大により、GIGAスクール構想の整備が急ピッチで進められています。
小学校4年生までを対象にした家庭への機器の貸し出しや、教育向けクラウドプラットフォームの導入などを積極的におこない、コロナ自粛期間中での在宅学習支援をおこないました。
当初は2023年までに構想を実現する予定でしたが、これを前倒しし、今年度内の1人1台端末配備に向けて計画を進めているそうです。
GIGAスクール構想取り組み事例「文部科学省 GIGAスクールサポーター配置支援事業」
文部科学省では、令和2年度補正予算にて、ICT化を進める自治体を支援するために、ICT環境整備の設定や使用マニュアルなどの作成を担うICT技術者を学校に配置するための経費を支援するとしています。
GIGAスクールサポーターと呼ばれる技術者は、4校に1人配置され、上記のICT環境整備の設定や使用マニュアルの作成のほかにも、工事や納品対応、使用方法の周知などをおこないます。
また授業支援や環境のメンテナンスなどをおこなうICT支援員や、ICT関係企業のOBなどから構成される外部人材の活用も検討されています。
出典:事務連絡 令和2年5月26日 各都道府県教育委員会 「GIGA スクール構想の実現」事務担当者
GIGAスクール構想取り組み事例「文部科学省 子供の学び応援サイト」
文部科学省では、学校の臨時休業期間中などにおける子どもの学習支援方策として、オンラインで活用できる無料の教材や学習用動画などのリンクを紹介するサイトを解説しています。
コンテンツを提供しているのはNHK for Schoolや大学、各教育委員会、教科書発行者などが作成されており、各教科ごとにさまざまな動画や教材が紹介されています。
こうしたオンライン学習コンテンツの充実も、GIGAスクール構想を構築していくうえで欠かせない取り組みだといえるでしょう。
出典:事務連絡 令和2年5月26日 各都道府県教育委員会 「GIGA スクール構想の実現」事務担当者
GIGAスクール構想取り組み事例「文部科学省 家庭学習のための通信機器整備支援」
GIGAスクール構想における課題や問題点で解説したとおり、家庭学習時における通信設備の設置は、経済的状況で難しい家庭もあり、格差が生まれやすい状況になっています。
その懸念を解決するために、文部科学省では「家庭学習のための通信機器整備支援」として、「児童生徒に貸し出し可能なモバイルWi-FiルータやUSB型LTEデータ通信機器(USBドングル)などの可搬型通信機器を学校に一定数整備する」としています。
補助は個人に出るわけではなく、国・公・私立の小・中・特支などが対象となっており、低所得者世帯への貸与用として各機器を整備する場合に補助される制度です。
出典:事務連絡 令和2年5月26日 各都道府県教育委員会 「GIGA スクール構想の実現」事務担当者
まとめ
今回は、GIGAスクール構想の定義や整備が進められている背景、課題や問題点、取り組み事例などをご紹介しました。
教育機関のICT環境整備は急速に進んでおり、またそれらを活用した新しい教育方法も浸透してきています。
これら激変する環境に柔軟に適応するためには、小さな頃からネットやオンライン学習に親しみ、リテラシーなども身につけておくことが重要です。以下にGIGAスクール構想に関連する記事や、新しい学びについてのコラムについてのリンクを記載しておきますので、あわせて参照してみてくださいね。
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