数々の著名人も受けているモンテッソーリ教育とは
Amazonの創立者であるジェフ・ベゾスや、社会学者のピーター・ドラッカー、最近では将棋棋士の藤井聡太も受けていたことで注目されているのが「モンテッソーリ教育」です。
自主性や積極性を養い、身体や社会情緒や認知などさまざまな面の発達に効果を発揮するといわれています。
今回は、モンテッソーリ教育の歴史や、特長、メリット・デメリット、教具や教育を受けられる期間などを解説・紹介しました。
モンテッソーリ教育の歴史
モンテッソーリ教育とは、イタリアの医師マリア・モンテッソーリが20世紀初頭に考案した教育法です。
彼女はイタリアで初めて女性の医学博士号を取得した人物であり、1890年代後半において女性が医師を務めることに否定的であった医学界においては、なかなか仕事を見つけることができませんでした。そんななか、彼女はなんとかローマ大学付属の精神病院に職を見つけ、勤務することとなります。
彼女は入院していた知的障害のある幼児を観察するうちに、彼ら・彼女らが感覚的な刺激を求めていることに気づきます。そこで、今日モンテッソーリ教育で使用される「教具」の原型を与えたところ、障害のある子どもでも知能の向上が見られるという結論にたどり着きました。
この治療教育は、ローマに住む貧困家庭の子どもたちにも応用され、知能の向上に関して素晴らしい効果を発揮したそうです。以後、マリアはローマ大学に再び入学し、哲学などを学びなおした後、感覚教育や知的・発達障害者研究、生理学や精神医学の研究にも取り組み、今日のモンテッソーリ教育を確立するにいたりました。
モンテッソーリ教育は世界各国に広がっており、当該教育を専門的におこなう教育機関は「子供の家」と呼ばれています。1960年代には日本にも渡ってきており、幼稚園や前述した子供の家にて、モンテッソーリ教育がおこなわれています。
ただ、日本におけるモンテッソーリ教育の認知は本来のものと多少異なっているのが現状です。日本では「潜在能力を引き出す」「知的能力の向上」「小学校向け受験対策」など、幼少時のいわゆる英才教育としてとらえられがちです。
上記は完全なる誤解ではありませんが、モンテッソーリ教育が本来持つ目的としては「自主・自立の精神や知的好奇心をもち、社会に貢献し、生涯に渡って学び続けられる人材の育成」が挙げられ、欧米では主流となる学校教育とは違った教育・学習方法を意味する「オルタネイティブ教育」として認知・評価されています。
モンテッソーリ教育の特徴
モンテッソーリ教育の特徴として大きなものとしては、「教具・整えられた環境・教員養成」が挙げられます。まず、教具とはマリア・モンテッソーリと助手たちが開発した教材のことで、円柱や棒、幾何学立体など、さまざまな形状・触感・重量・材質が採用されています。どの教具も子どもの感覚を効果的に刺激するような工夫がほどこされていて、後述する日常生活の練習、感覚教育、言語教育などで使われます。
次の「整えられた環境」は、モンテッソーリ教育をおこなううえでの環境整備を指します。モンテッソーリ教育では、子どもたちが自分自身で学ぶことを目的としていますから、教具が分野ごとに整理されていたり、作業内容や教育レベルによって椅子を用意する、床に座らせる、あるいは立った状態でなど、学習しやすいスペース作りも重要です。
最後の「教員養成」は、子どもの作業を見守る教員や保護者のこと。上記の環境整備にくわえて、「○○をしよう」と押し付けることなく選択肢を与えるなど、子どもが自ら学び、成長していく過程をサポートしなければなりません。
気をつけたいポイントとしては、あくまで「見守る」ことが挙げられます。なんでもかんでも手ほどきしていては子どもの自主性が損なわれてしまいますし、やる気を削いでしまうといった結果にもなりかねません。何より注意深く観察し、彼ら・彼女らが何を求めているのかを感じ取り、適切な教育をサーブしてあげることが重要です。
この教員養成も、マリア・モンテッソーリにより確立されており、教員資格も存在します。日本では国際モンテッソーリ協会の国際免状や、日本モンテッソーリ協会などの団体が認定している日本独自の免状を取得することが可能です。
モンテッソーリ教育の概要
モンテッソーリ教育は、上述した教具・整えられた環境・教員養成の3要素をもとにおこなわれます。教具を用意し、環境を整え、教員が見守り、ときに手助けします。教具を使った活動のことは「お仕事」と呼ばれ、このお仕事がモンテッソーリ教育の中核をなしています。
どの教具を使ってお仕事おこなうかは、子どもの性格や年齢などによってさまざまですが、後述する発達段階、そしてモンテッソーリ教育の5分野と呼ばれているものがひとつの目安になります。
発達段階とは、子どもの発達を0〜6、6〜12、12〜18、18〜24歳の4段階に分類したもので、それぞれ異なる特徴をもっているとされています。本コラムでは、子どもの吸収力がもっとも高いと思われる0〜6歳の第1段階を解説します。
まず第1段階において、マリア・モンテッソーリは「吸収心」「敏感期」「正常化」といった概念を用いています。
吸収心とは、子どもが視覚や聴覚、触覚などの5感を通した感覚や、周りから聞こえてくる言葉(言語)、自身をとりまく文化や広い意味での情報など、環境がもたらす刺激を、真綿が水を吸うように吸収していく様を表しています。
敏感期とは、0〜6歳の時期に受ける特定の刺激に対して、とくに強い感受性をもつことを示しており、この感受性にあわせた教具や環境を整えることが重要であるとしています。
敏感期に関しては諸説ありますが、おおよそ以下の5つに分類でき、それぞれ知覚的刺激を受けやすい時期が異なります。
・言語
・秩序
・小さな物体への興味
・感覚
・運動
言語の敏感期にあたるのは胎児期~約6歳、言語には会話のほかに文字も含まれますが、文字の敏感期はだいたい3歳〜6歳ほどといわれています。
秩序の敏感期は半年〜3歳前後、または1歳〜3歳とされており、ものの順番や置いてある場所などに関して強いこだわりを示すのが特徴です。俗に言う「イヤイヤ期」はこの時期とされています。
小さな物体へ興味をもつのは約1~3歳で、2歳〜としている言説も見られます。
感覚とは五感のことで、0〜3歳のうちに聴覚や嗅覚、味覚などの五感から得た情報や印象を溜め込み、3〜6歳にかけて分類したり、整理したりします。
運動の敏感期は、0〜3歳では座る・立つ・ものを運ぶなどの単純動作をすることで、動きに対する欲求が現れ、3歳〜6歳では、それまでの動きをよりスムーズに、または組み合わせるなど発展させた運動をおこなう時期としています。
またこのほかにも、社会的な振る舞いや、文化に対する敏感期などを挙げるケースも多々あります。
ちなみに、6〜12歳における第2段階では、身体的・精神的な変化が顕著に見られます。たとえば身体的には乳歯が抜けて永久歯が生えてきたり、身長が伸び体重が増加したりします。精神的には集団に入り、社会的な営みをおこなううえでの社会性の向上などが挙げられます。マリア・モンテッソーリは、この段階で道徳観や知的な自立などを育むことが必要であると考えました。
このように、発達段階(のなかでも複数の時期)に応じた教具を揃え、提供し、環境整備をすることが重要です。次項で、この0〜6歳の発達段階にあわせた教育内容と、具体的なお仕事を解説していきます。
モンテッソーリ教育の5分野
モンテッソーリ教育には、日常生活の練習・感覚教育・言語教育・算数教育・文化教育からなる「教育の5分野」があり、先述した敏感期に対応しています。
日常生活の練習では、衣服の着脱、アイロンや洗濯、掃除など、日常生活でおこなわれる活動をしていきます。たとえば「シャツを着る」というお仕事であれば、シャツを着たり脱いだりするときには身体は大きく動き、ボタンを付け外しする際には指先の細かい運動が必要です。
感覚教育は、物の高低・大小などの視覚を養う円柱さしや、音の高低を認識することで聴覚を養う音感ベルなど、五感を刺激する教具を用いておこなわれます。
言語教育は、文字通り言語の発達を目的としたもので、話し言葉はもちろん、絵と文字が描かれたカードや文字を並べ替えて言葉を作れるカードなどを使用し、豊富な語彙を身に付けたり、文法や構成を学習します。
算数教育では、感覚で把握できる「量物」、量物を表す「数詞」、量物を書き言葉で表す「数字」の3つを重要視しています。教具には10進法のビーズや算数棒などが使われ、論理的な力をを身につけることが可能です。
文化教育は、地理・歴史・音楽・美術・動植物など、さまざまな要素が含まれています。世界地図や日本地図のパズルを使って地理を勉強したり、惑星の模型図を用いて宇宙について学んだりと、総合的な学習内容となっています。
上記はほんの一部であり、発達段階や子どもの興味によって内容は変化します。
モンテッソーリ教育のメリット・デメリット
モンテッソーリ教育には、メリットもあればデメリットもあります。しかし、モンテッソーリ教育を批判する際に使われるデメリットの多くは対処可能なものであり、根拠が薄いものも少なくありません。以下の項目でくわしく解説していきます。
モンテッソーリ教育のメリット
モンテッソーリ教育のメリットとしては、子どもたち1人1人の発達段階や性質にあった教育がおこなわれるため、個性が伸ばしやすい点が挙げられます。
また「○○をしてみよう」といった受け身の学習ではなく、興味をもったものに主体的に取り組むため、能動的な態度や積極性が身につくのもメリットだといえるでしょう。
クラス編成は0~3、3~6歳のように年齢が混成しているため、年上や年下とコミュニケーションをとる能力が向上することも利点です。
さらに大きな運動から細かい運動まで、幼少時から教具を使って身体を動かすので、器用になりやすことも挙げられます。
ほかにも、宿題がないため子どもの負担が軽くなることや、テストなどを実施することでの他者との相対評価がない点も大きな魅力で、子どもが伸び伸びと成長できる環境が作られていることも見逃せません。
モンテッソーリ教育のデメリット
いっぽうで、モンテッソーリ教育のデメリットとしては、協調性が育ちにくい、運動が足りない、自己中心的な性格になってしまうなどといった批判がよく見られます。
モンテッソーリ教育は子どもたちの自主性や興味をもったことを最大限尊重しますので、一般的な教育がおこなわれる小学校や中学校に入学した際に「協調性がなく浮いてしまうのではないか」といった声もよく聞く批判です。
しかし、モンテッソーリ教育では、子ども同士のやりとりも頻繁にあり、年齢も混成していることから「上級生が教具を譲っているのを見て学ぶ」など、協調性を育むシーンも多く見られます。
また運動が足りないといった意見ですが、たとえばモンテッソーリ教育をおこなっている幼稚園では、1日中モンテッソーリ教育ばかりしているわけではありません。運動の時間や外遊びのプログラムを設けていることがほとんどですし、子どもがもっと運動をしたいのであれば、体操教室や水泳教室などに通わせる手も考えられます。
自己中心的な性格になってしまうのではといった批判に関しては、協調性に関する指摘と同じく、一概にモンテッソーリ教育を受けることで生じるデメリットであるとは断言できません。
モンテッソーリ教育の教具
モンテッソーリ教育で使用される教具は、形や素材、使い方などが異なるさまざまなものがあります。また家庭用としても販売されており、Amazonなどで購入も可能です。以下の項目で代表的なものを解説します。
具体的なモンテッソーリ教育の教具
本項ではモンテッソーリ教育の教具を、上述した5つの分野にわけて紹介します。
【日常生活の練習】
日常生活の練習では、厚紙や木の板などを糸で吊るし、ゆらゆらと動く玩具である「モンテッソーリ・モビール」や、玩具を引っ張って握ったり、揺れているさまを目で追ったり(追試)できる「ベビージム」などが使われます。
【感覚教育】
感覚教育では、物の大小や高低、太い・細いなどを識別できるようになる「円柱さし」や、触り心地の異なる木製板を組み合わせた「触覚板」、音の高低を判断できるようになる「音感ベル」などが使われます。
【言語教育】
言語教育では、あ〜んまでの50音が1文字ずつパズルになった「50音の箱」や、語彙を向上させるための「絵合わせカード」などが使われます。
【算数教育】
算数教育では、10個のビーズを用いて10進法を学べる「10進法のビーズ」や、長さ・幅・高さなどを視覚的にとらえることのできる「算数棒」などが使われます。
【文化教育】
文化教育では、日本地図や世界地図のパズルで地理を学習したり、動植物が描かれたカードを使って生き物について学んだり、太陽系の惑星モデルを使って宇宙に関する知識を得たりと、さまざまなジャンルの教具が用意されています。
モンテッソーリ教育が受けられる教育機関、または家庭での実践方法
ここまでは、モンテッソーリ教育がどのようなものかや、特長、メリット・デメリット、教具などを解説してきました。最後に、モンテッソーリ教育が受けられる教育機関や、家庭でモンテッソーリ教育を取り入れる際の注意点などを解説します。
まず、国際モンテッソーリ協会(AMI)が認定した教育機関としては、東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター付属の「聖アンナこどもの家」、「聖イリナモンテッソーリスクール」、及び「マリア・モンテッソーリ子どもの家」が挙げられます。
ほかにも、東京23区では成城モンテッソーリプリスクール(世田谷)、白百合学園幼稚園(千代田区)、ひかりのこ こどものいえ(目黒区)などでモンテッソーリ教育がおこなわれています。
全国的にはカトリック系の保育園や幼稚園など、多くの教育機関が取り入れていますが、日本政府に認可されている小学校や中学校はありません。
また、通常の教育とあわせてモンテッソーリ教育を取り入れているところも多いため、事前にどのようなことが学べるかを確認しておくのがおすすめです。
次に、家庭でモンテッソーリ教育をおこなう際の注意点ですが、モンテッソーリ教育には適切な教具を揃えるだけでなく、整えられた環境と教員養成が必要です。家庭では保護者が教員になりますので、ある程度の知識はもっておいたほうがよいでしょう。
そのための指針として、「おかあさんのモンテッソーリ(野村 緑著)」より「教師の心得12か条」をご紹介します。
【1】環境に心を配ること
【2】教具などの取り扱い方を明快に、正確に示す
【3】子どもが環境と交流を持つまでは積極的に、集中をしはじめたら消極的になりなさい
【4】探しものをしていたり、助けを必要としていたりする子どもを見逃さないよう観察しなさい
【5】呼ばれら駆け寄り交歓しなさい
【6】言語で表現する、しないに関わらず招かれたら耳を傾けてあげなさい
【7】子どもがしているお仕事を尊重し、質問を投げかけたり中断したりしないようにしなさい
【8】子どもが間違っても直接的に訂正するのではなく、子ども自身に気付かせなさい
【9】休憩していたり、他の子どものお仕事を見ているときも尊重し、お仕事を無理強いしないように
【10】お仕事を拒否したり、理解しなかったり、間違ったりしている場合は、仕事への誘いかけに努めなさい
【11】教員を探し求める子どもに対しては、そばにいると感じさせ、感づいている子どもに対しては隠れるようにしなさい
【12】お仕事がすんだ子どもは安っぽい言葉で褒めず、静かに認めながら子どもの前に現れなさい
どの項目も子どもの自主性や積極性を育むのに役立つものばかりではないでしょうか。家庭でモンテッソーリ教育をおこなう際には、上記の心得をしっかりと覚え、さらにインターネットや書籍などでくわしく調べることをおすすめします。
まとめ
今回のコラムでは、モンテッソーリ教育の歴史や、特長、メリット・デメリット、教具や教育を受けられる期間などを解説・紹介しました。
モンテッソーリ教育は、自立心や積極性や生涯にわたって学び続ける力など、これからの複雑化する社会に適応ための能力を育むのにうってつけの教育ですので、気になる方はぜひ本記事を参考に、導入を検討してみてはいかがでしょうか。