ロジカルシンキング(論理的思考)とは?
ロジカルシンキングとは、ビジネスの場で使用されることが多いイメージですが、論理的に思考することは社会生活全般においてさまざまなメリットをもたらします。
今回のコラムでは、ロジカルシンキングの基本的な概念やメリット、手法や訓練方法などを解説していきます。
ロジカルシンキング(論理的思考)とは
ロジカルシンキングとは、主にビジネスの場で広く使われている思考方法で、日本語に直すならば「論理的思考」や「理論的な考え方」といった意味になります。
具体的な手法や活用方法は後の項目で解説していきますが、簡単に説明しておくと、ロジカルシンキングを身に付けることで複雑な物事を細かく分析して状況を把握する力や、整理された情報をもとに筋道を立て、漏れやズレがないように思考を構築していく力を養うことができます。
この力は、ビジネスだけでなく、これからの予測不可能な時代を生きていくためにも大きく役立つことでしょう。こちらも、現在注目されている「プログラミング思考」に関連付けて後述します。
さて、ロジカルシンキングは世界的に採用されています。日本では2000年代初頭から紹介されはじめ、ビジネスパーソンを対象に広まりました。
なかでもブームを巻き起こしたのが照屋華子・岡田恵子の共著『ロジカル・シンキング 論理的な思考と構成のスキル』で、有名なフレームワークである「MECE」などが紹介されています。
ロジカルシンキングを身につければ、問題解決能力はもちろん、プレゼンでわかりやすく発表するスキルや文章作成など、さまざまな局面で役に立ちます。
ロジカルシンキングの考え方
ロジカルシンキングの代表的な概念としては、「MECE」と「So What?」「Why So?」が挙げられます。
MECE(ミーシー)とは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字からとられており、日本では「漏れなく、ダブりなく」といわれます。
話(要素)の重複や漏れ、ズレをより少なくすることで、設定した目的に関する要素を洗い出しやすくし、さらにさまざまな角度からブラッシュアップすることで問題を明確化することができます。
また「So What?(つまり?)」「Why So?(なぜ?)」もよく使われる基本概念です。テーマや問題に関して「Why So?(なぜ?)」と問いかけ、どんどんと掘り下げていくことで、原因を探るための確度が高まります。また原因からは「So What?(つまり?)」を繰り返して結論にたどり着く、あるいは探ることが可能となります。
上記のような考え方を身に付けることで、論理的思考能力が高まり、問題解決や効果的なプレゼンテーション・コミュニケーションスキルなどを養成することができるのです。
ロジカルシンキングのメリット
ロジカルシンキングができるようになると、実にさまざまなメリットがもたらされます。たとえば、筋道を立てて説明できれば、情報共有のさいにも齟齬が発生しにくく、コミュニケーションを円滑にすることができます。これは会話だけでなく、メールやチャットなどのツールを使うケースでも同様です。
相手を説得したり、営業をしたり、アイデアや企画を提案したりなどをする場合でも、論理的にわかりやすく伝えることができれば大きなアドバンテージになります。これはビジネスパーソンだけでなく、極端な話をしてしまえば、子どもが親に対して何かをねだる際にも有利にはたらくことでしょう。つまり、普遍的なメリットがあるといえます。
ほかにも、「MECE」や「So What?(つまり?)」「Why So?(なぜ?)」などを使いこなすことでもたらされる分析能力・問題解決能力の向上も大きな利点です。
またロジカルシンキングは、原因と結果といった因果関係を踏まえて思考しますので、不足の事態が起こってしまった場合でも問題の原因を見つけ、解決するといった能力も向上します。
ロジカルシンキングの手法や活用方法
「MECE」や「So What?(つまり?)」「Why So?(なぜ?)」などの基本概念にくわえて、ロジカルシンキングの手法は多岐にわたります。以下の項目で活用方法とともに紹介していきます。
ピラミッド構造と活用方法について
ピラミッド構造は「ピラミッドストラクチャー」ともいわれ、まず結論を頂点に置き、次の階層で根拠を置き、さらに下の階層でも根拠の根拠を並べていく形をとります。
結論や仮説が「論理的に正しい」ことを証明するためには根拠が必要になります。たとえば「○○は○○である」「なぜなら○○だからだ」というように、結論と根拠をセットで述べることにより主張が明確になり、説得力も増します。この根拠の部分を細分化させていくことで、さらに論を強化することが可能です。
ピラミッドストラクチャーでは「So What?(つまり?)」「Why So?(なぜ?)」も活躍します。結論に対して「Why So?(なぜそのような結論になるのか)」、根拠に対して「So What?(つまり?)」と問いかけを繰り返すことにより、確度が高まります。
このピラミッド構造は、結論や仮説の正しさを証明したり、他人に対しての説明や説得に活用することができます。
ロジックツリーと活用方法について
ロジックツリーは木の幹から枝がわかれていくような分岐構造を使い、問題を分解して解決方法や原因を見つけ出すことができます。
上述したピラミッド構造との大きな違いは、ピラミッド構造が「結論」を先に置き、結論の正当性を裏付けるための根拠を組み立てていく、つまり「自分の論の正しさを証明したり、説明・説得に使う」のに比べて、ロジックツリーは問題を細かく分解し、原因などを探る必要があるような検討や思考の段階でよく使われる点です。
ロジックツリーを作るメリットとしては、課題に対する問題を発見しやすくなったり、その問題の原因が特定しやすくなったり、解決策を考えやすくなったりする点が挙げられます。
たとえば、「家計が赤字になっている」という課題があったとしましょう。家計が赤字になっているのは明らかですが、これでは実際に「何が家計を圧迫しているのか」といった原因はわかりません。
そこで「家計が赤字になっている」から「通信費が上がっているか?」「光熱費が上がっているか?」「交際費が上がっているか?」など、支出部分を細分化して下層に配置します。さらに「通信費」であれば、携帯料金・光回線料金・プロバイダー料金などを下層に配置します。すると「携帯料金のなかでも、通信量購入が大きい」など、「何が支出に影響しているか」といった原因を特定しやすくなります。
演繹法と活用方法について
演繹法は、ロジカルシンキングに関する書籍やセミナーなどでも頻繁に登場する手法で、有名なものには「三段論法」という思考方法があります。
たとえば、よく引き合いにだされるのが「アリストテレスの三段論法」です。
・すべての人は死ぬ
・ソクラテスは人である
・ソクラテスは死ぬ
三段論法は「大前提」「小前提」「結論」からなり、上記のケースでは「すべての人は死ぬ(大前提)」「ソクラテスは人である(小前提)」「ソクラテスは死ぬ(結論)」となります。「すべての人は死ぬ」普遍的な事実と、「ソクラテスは人である」という具体的な事実から「ソクラテスは死ぬ」といった結論につなげることができますので、主張の内容をわかりやすく相手に伝えることが可能になります。
帰納法と活用方法について
帰納法は普遍的な事実である大前提を設定する演繹法とは逆に、複数の事象から判断できる傾向をまとめ、論を導きます。
たとえば、「納豆が身体によいとTwitterで呟かれていた」「テレビでも納豆に含まれる成分が健康によいと報道されていた」などといった複数の情報から「納豆は身体によい」との結論を導き出します。
とはいえ、帰納法で導き出した結論は必ずしも正しいわけではない=普遍的な事実ではない点に注意が必要です。ただ、帰納法が使えないわけでは決してありません。たとえば、アンケートの結果から商品の売り上げ傾向や伸びしろを推測するなどといった複数の情報から仮説を組み立てるといった時など、活用できるケースは多岐にわたります。
ロジカルシンキングの訓練方法
ロジカルシンキングの訓練方法としては、主に日常から論理的思考の手法を取り入れたり、話し方、考え方などを変革するといったものが挙げられます。それぞれを以下で解説していきます。
日常にロジカルシンキングを組み込む
ロジカルシンキングを身に付けるためには訓練が必要です。そのため普段から意識してMECEなどの概念やピラミッド構造やロジックツリーなどを使い、生活・仕事に取り入れることが上達のコツです。
また普段は直感や経験則から判断してしまいそうなことも、ロジカルシンキングの手法を用いて考えてみることで、今まで気付かなかった問題点や解決方法が見いだせるようになるでしょう。
何はともあれ、当たり前のように論理的思考ができるようになるまで、まずは何度も実践してみることが上達のコツです。
結論から話すことを心がける
ピラミッド構造の項でも解説したとおり、「○○は○○である」「なぜなら○○だからだ」のように、結論と根拠をセットにすると、自分の思考もクリアになりますし相手への説得力も向上します。
学生・社会人問わず、質問や報告、提案などをする際に結論から述べ、あわせて根拠も提示することで、自然と論理的思考を鍛えることができます。
また、ある程度慣れてきたら、根拠を複数用意しておくのも重要です。ピラミッドストラクチャーのように、複数の根拠を設定し、さらにその根拠を深堀りすると、よりロジカルシンキングが身につきます。
ゼロベース思考など、従来していた考え方を変える
人は思い込みや先入観をもっていると、前提条件や原因などを間違えてしまいがちになってしまいます。そこで役に立つのが「ゼロベース思考」です。ゼロベース思考で考えるためには、自身の思考の過程や先入観などを明らかにすることが重要ですので、複数人でブレインストーミングをおこなったり、レビューしてもらうのがおすすめです。
また1人でセルフディベートをするのもよいでしょう。通常のディベートでは、テーマを設け、異なる意見を対立させるグループを作り、参加者が自分のグループにあった意見を主張性、相手の主張を踏まえて結論につないでいきます。
セルフディベートはすべての役を1人でおこなうため、相手に意見を伝えるのも、相手からの意見を聞くのも自分となります。意見の根拠となる情報や、相手を納得させ得るような議論の展開などを、異なる立場でアプローチしなくてはいけないので、論理的思考力を身に付けるためにはもってこいの方法だといえるでしょう。
ロジカルシンキングを身に付けるには、プログラミング思考を学ぶこともおすすめ
論理的な思考力は、大人になってからでも身に付けることができます。事実、ビジネスパーソン向けにロジカルシンキングを学ぶためのセミナーやスクールなどが開催されていますし、研修などに組み込んでいる企業も多々あります。
ただ、もし可能であれば子どものうちから論理的思考を学んでおけば、問題を見つける力や解決する能力の向上など、さまざまなメリットが考えられます。その学習方法としておすすめなのが「プログラミング」です。
ここでのプログラミングとは、ただコードを書くといった意味ではありません。重要なのはプログラミングをする過程で養われる「プログラミング思考」です。
プログラミングをする際には、処理する対象の細分化や、処理を実行するための繰り返しや条件分岐などがおこなわれます。複雑な物事を細分化して動きやすくすることや、解決するべき問題のなかで、何が重要なポイントなのかを導き出す思考過程は、まさしく論理的思考です。
この「プログラミング思考」は、これからの社会に求められている思考方法であり、2020年度からは小学校で「プログラミング教育」が必修化されるなど、国も力を入れています。
その背景には、急激な社会の変化に対応できる人材の育成があります。文部科学省の『小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)』によると、そう遠くない未来、人工知能などのテクノロジーが発展することで、社会のあり方が大きく変化するであろうと予想されています。
すると、それまで人間の仕事とされていたものをAIやロボットが担うようになり、現実となった場合、現在の学校でおこなわれている教育を受けた人材では通用しなくなってしまうのではといった不安の声が多くあったそうです。
これらの声を受けて、「現在、社会や産業の構造が変化していく中で、私たち人間に求められるのは、定められた手続を効率的にこなしていくことにとどまらず、自分なりに試行錯誤しながら新たな価値を生み出していくことであるということ、そして、そのためには生きて働く知識を含む、これからの時代に求められる資質・能力を学校教育で育成していくことが重要である」としています。
これからの時代、論理的に考え、問題を的確に捉え、解決方法を見出すといった一連の思考能力は必要不可欠だと言っても言い過ぎではないでしょう。以上のことから、ロジカルシンキングやプログラミング思考といった、論理的に考える思考は子どもの頃から学んでおくと将来に渡ってよい結果がもたらされるのではないでしょうか。
出典:『小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)』
まとめ
今回は、ロジカルシンキングの基本的な概念やメリット、手法や訓練方法などを解説してきました。
ロジカルシンキングは才能ではなく、訓練すれば誰でも使えるようになる思考方法です。本記事で紹介した手法などはごく一部であり、あくまで入門編ではありますが、より深く学びたいといった方は、本コラムを参考にしつつ、専門的な書籍なども用いて学んでみることをおすすめします。