スクラッチ(SCRATCH)とは?
プログラミング教材として、日本だけでなく世界各国で幅広く採用されているのが「SCRATCH(スクラッチ)」です。
ビジュアルプログラミング言語であることから、コードが書けなくとも直感的な操作が可能。導入も簡単であり、プログラミング初心者に最適な学習教材です。
今回はスクラッチの紹介をはじめとして、特性や活用メリット、実施事例などを解説していきます。
ビジュアルプログラミング言語「スクラッチ」とは
SCRATCH(スクラッチ)とは、アメリカのMITメディア・ラボで作られた無料のプログラミング言語です。対象年齢は8〜16歳向けにデザインされていますが、導入の手軽さなどから幅広い年齢・国籍の方に使われています。
日本でもプログラミング教材として浸透してきており、2020年度から必修化された小学校のプログラミング授業でも数多くの採用事例があります。
大きな特長としては「コードを書かなくてもよい」点が挙げられます。基本的な操作はドラッグ&ドロップのみですので、プログラミング言語の知識やコーディングスキルは必要ありません。
またブラウザ上で動作するため、WindowsやMac、LinuxといったOSを問わない点も大きな魅力です。
ただ、簡単で使いやすいといっても、単純なことしかできないわけではありません。インタラクティブなストーリーやゲーム、アニメーションなどさまざまなプロジェクトを作成可能で、オンラインコミュニティで作品を共有することも可能です。
直感的に、簡単に操作ができる。スクラッチの使い方
スクラッチの使い方は実に簡単で、スクラッチの公式サイトにアクセスすると、以下のページが表示されます。
引用:SCRATCH
このトップページにある「作ってみよう」と書かれたボタンを押せば、すぐにプロジェクトの作成がはじまります。
ヘッダー部分にある地球儀のマークを押せば言語の変更が可能です。日本語のほかにも漢字を平仮名になおせる「にほんご」も用意されていますので、学習レベルにあわせて適宜変更するとより使いやすくなるでしょう。
具体例として、実際に画面右に表示されている猫を動かしてみることにします。
まず、左にある「10歩動かす」「15度回す」などのブロックを、ドラッグ&ドロップで右に配置します。たとえば「10歩動かす」を配置し、ブロックをクリックすると猫が10歩分、右に移動します。
引用:SCRATCH
ブロックには動きのほかにも「見た目」や「イベント」、「制御」などがあり、左メニューから選択可能です。
たとえば「10歩動かす」と「こんにちは! と2秒言う」を組み合わせると、猫は10歩移動した後に「こんにちは!」と喋ります。(スクリーンショット上では2秒を20秒に変更しています)
引用:SCRATCH
これらのブロックを組み合わせたり、ブロック内の数字を変更したりしてさまざまな動きを表現していきます。
もっと複雑な動かし方を知りたい方は、公式ホームページ内にある「アイデア」を参考にするとよいでしょう。
チュートリアルや充実したアクティビティーガイドを参照することができます。また学習者だけでなく、教育者向けのガイドも用意されていますので、教師や講師の方はもちろん、保護者も読んでおいて損はありません。
ほかにも、コミュニティ内で共有されたプロジェクトなども楽しむことができますので、ぜひ参考にしてみてください。
スクラッチの特性と活用メリット
本項では、スクラッチの特性と活用メリットを紹介していきます。スクラッチは直感的に操作ができ、導入が簡単な点が大きな特長で、ユーザーが多くコミュニティが充実していることも他のプログラミング学習教材と比べて大きなアドバンテージとなっています。
以下でより具体的に解説していきます。
スクラッチの特性
スクラッチの大きな特性としては、「スクラッチとは」の項でも記述したとおり「コードを書かなくてもよい」ビジュアルプログラミング言語である点が挙げられます。
ビジュアルプログラミング言語とは、テキストではなくブロックを組み合わせるような「ビジュアル」をベースにした言語のことで、視覚的・直感的な操作が可能です。
そのため英語はもちろん、言葉の意味がわからない子どもでも使いやすく、ゲーム感覚で学習に取り組むことができます。
スクラッチのほかにも、ビジュアルプログラミング教材は多岐にわたります。たとえば「Swift Playgrounds™」はテキスト・ビジュアル言語双方が使われているiOS用のプログラムを作ることのできる教材です。
また「特定非営利活動法人みんなのコード」が無料公開している「プログル」は、スクラッチのようにブロックを組み合わせて与えられた課題をクリアしていくタイプ教材です。
どちらも小学校のプログラミング学習でも採用されていますが、上記2つに比べるとスクラッチはより直感的な操作がしやすく、わかりやすく、小さなこどもでも理解しやすいなどのメリットが挙げられます。
ただ、スクラッチを含むビジュアルプログラミング言語ツールでは、コーディングを学ぶことはできない点に注意が必要です。とはいえ、プログラミングに共通する「設計」や「実装」、「テスト」「リリース」といった一連の流れを学べる点は大きな魅力だといえるでしょう。
スクラッチの活用メリット
スクラッチを活用するメリットとしては、繰り返しにはなりますが無料であることやブラウザ上で完結する動作など、導入が手軽な点がまず挙げられます。
またプログラミング教材のなかでも特にユーザー数が多く、マニュアルやシェアされている作品が豊富ですので、子どもが1人でも学習しやすく、知識やアイデアなどを吸収しやすいこともメリットだといえるでしょう。
上記のほかにも、大きな利点として「プログラミング思考」を身につけられることが挙げられます。
プログラミング思考がどのような思考かについては、文部科学省の『小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)』にある一文がヒントになります。
「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力が必要になる。」
プログラミングを行なう際には、処理の細分化や処理を実行するための繰り返し、条件分岐などを行います。このように、物事を細分化して解きやすくしたり、起きている問題のなかで何が重要なのかを導き出したりする思考は、他分野での問題解決にも活用することができます。
将来の予測が困難な現代において、複雑な情報を読み解く技術や、問題を見つけ、解決していく力は今まで以上に必要とされてきています。これらの力を身に付けるうえで、プログラミング思考は必須であるとされており、必修化されたプログラミング学習のなかでも重要なポイントとなっているのです。
スクラッチは上述した「処理の細分化や処理を実行するための繰り返し、条件分岐など」を感覚的に行なうことができます。つまり「プログラミング思考」をわかりやすく学ぶための第一歩として、とても適した教材であるといえるでしょう。
引用:小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)
スクラッチを導入している教育機関や実施事例
ここからは、スクラッチを導入している教育機関や、実施事例について具体的に解説していきます。
教育機関に関しては、どのような機関が導入しているか。またなぜスクラッチが多く採用されるのかといった理由を解説し、実施事例については、「未来の学びコンソーシアム事務局」の情報をもとに、小学校で実際にスクラッチが採用された授業を紹介します。
スクラッチを導入している教育機関について
スクラッチを導入している教育機関は、小学校〜大学、プログラミング教室など多岐にわたります。
また企業が開催するワークショップや博物館や美術館、図書館などでの導入事例もあります。
スクラッチがなぜ、これほど広まっているかに関しては、先述したように導入の手軽さや直感的な操作ができるビジュアルプログラミング言語であることが考えられます。
また、世界的にみると150以上の国と地域で使われていることから、情報や更新、ユーザー間の交流が盛んである点も理由のひとつです。
スクラッチの具体的導入事例
文部科学省・総務省・経済産業省が、教育・IT関連の企業とともに立ち上げた「未来の学びコンソーシアム事務局」では、スクラッチをはじめとしたプログラミング教材を使った教育事例が紹介されています。
以下で具体的な導入事例をみていきましょう。
杉並区立西田小学校(東京都)
杉並区立西田小学校では、5年生の算数の授業で「正多角形をプログラムを使ってかこう」という授業が行なわれました。
スクラッチを用いて辺の長さと角度を指定することで正多角形を書き、「このようにプログラムを書いたら正多角形が書ける」のではなく、「どのようにしたら正多角形を書けるのか」と児童に考えさせることにより、プログラミング思考の育成を狙ったそうです。
また正多角形は角が多くなるにつれて、手作業で正確に作図するのが難しくなります。しかし、スクラッチを使えば角の数が増えたとしても素早く・綺麗に作図でき、より理解が深まるといったメリットもあったようです。
出典:正多角形をプログラムを使ってかこう(杉並区立西田小学校) | 小学校を中心としたプログラミング教育ポータル
台東区立金曽木小学校(東京都)
台東区立金曽木小学校では、「私たちの生活を支える郵便局の仕事」として、郵便物がどのように運ばれ、どのような仕事がされているのかを調べる活動が行なわれました。
調査した内容を発表する際には、スクラッチを使ったアニメーションで、郵便物が送付先に届くまでの流れを再現したそうです。正確な手順をプログラミングしないと送り先まで郵便物が届かないため、児童たちは一連の流れを正確に把握することができたそうです。
町田市立町田第三小学校(東京都)
町田市立町田第三小学校では、Googleと共同でスクラッチとAIを活用した「AI×スクラッチでどんなことができるかな」を行いました。
授業では身の回りにあるAI活用の事例や仕組みを知り、開発者に話を聞くことで情報技術に関しての知識を身に付けたそうです。
プログラミングに関しては、画像認識のできるAIブロックをスクラッチの拡張機能として使い、児童が描いた画を学習させて画像認識プログラムを作ることに成功しています。
出典:AI×スクラッチでどんなことができるかな | 小学校を中心としたプログラミング教育ポータル
プログラミング検定について
スクラッチで学習をはじめたら、自身のプログラミングスキルがどの程度身に付いたのかを客観的に判定するためのプログラミング検定に参加してみるのもおすすめです。
2016年の12月より、株式会社サーティファイはスクラッチを使ったプログラミングスキルを測定する「ジュニア・プログラミング検定」を開催しています。
検定はGold(1級)、Silver(2級)、Bronze(3級)、Entry(4級)の4級種から選択でき、問題文や完成例のムービーを参照して制限時間内にプログラムを作成します。
制作するコンテンツの例としては、シューティングゲームや足し算クイズなどがあり、公式サイトではサンプル問題に挑戦することもできます。合格すると認定証が授与されますので、子どものモチベーションアップにも寄与することでしょう。
また、中学受験では入試においてプログラミングを選択できる学校も増えてきており、検定に合格していると合格判定を優遇されたり、実技を免除されたりといった対応をとる学校もあります。
本検定合格者においては、大妻嵐山中学校(埼玉県)、相模女子大学中学部(神奈川県)がプログラミング入試において合格判定を優遇・考慮、また八王子実践中学校(東京都)では実技試験を免除としています。まだまだ数は多くありませんが、プログラミング学習・思考は今後ますます重要視されそうですので、このような検定に合格しておくと、受験で有利になることがあるかもしれません。
実施会場は北海道から沖縄まで全国のパソコンスクールやプログラミングスクールなどで行なわれていますので、検定を受けたり、概要をもっとくわしく知りたいといった方は、公式サイトを参照してみてください。
出典:ジュニア・プログラミング検定|ジュニア・プログラミング検定 | 資格検定のサーティファイ│あなたのスキルアップを応援します|
まとめ
今回は、ビジュアルプログラミング言語「スクラッチ」の解説や、特性・活用メリット、実施事例などについて紹介しました。
スクラッチは小さな子どもをはじめとして、プログラミング初心者にとって最適な学習教材です。各教育機関でもスタンダードと言って過言ではない採用実績もありますので、学んでおいて損はりません。
導入も簡単ですので、「これからプログラミングを学びたい、学ばせたい」といった方は、ぜひ活用を検討してみてくださいね。